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FCPA訴追の直近トレンド― 国際会議でDOJ・SECトップがエンフォースメントの動向について詳細発言

September 23, 2024

By Kwame J. Manley,Nathaniel B. Edmonds,Leo Tsao,Nisa R. Gosselink-Ulep,Daye S. Cho,新井 敏之,& Yuko Kamo

2023年11月28日から30日にかけて、American Conference Institute主催の海外腐敗行為防止法 (Foreign Corrupt Practices Act 又は「FCPA」) に関する国際会議が米国ワシントンDCで開催され、検察官、政府関係者、各社のコンプライアンス・オフィサー、外部のアドバイザーや弁護士等が集い、FCPAにまつわるトレンドや問題についての意見交換が行われた。中でも注目を集めたのは、現役政府高官によるFCPAのエンフォースメントにまつわる近年のトレンド、FCPAコンプライアンスのためのベスト・プラクティス、アメリカ国外でのエンフォースメントや海外当局との連携強化に関する議論である。こうしたトピックは過去に何度も討論されてきたが、特筆すべきは、2023の年末までに、さらにFCPA違反の審決が複数予定されていることを示唆したことにあろう。FCPAのエンフォースメントに携わる米国証券取引委員会 (「Securities and Exchange Commission」) FCPA部門の長であるCharles Cain氏、および米国司法省 (「Department of Justice」) FCPA 部門の長であるDavid Fuhr氏をはじめとし、司法省の現職の司法長官補佐(Assistant Attorney General)であるNicole Argentieri氏による基調講演や同人と司法省の詐欺部門の長であるGlenn Leon氏による対談を通じて、近年のFCPAのエンフォースメント・トレンドを垣間見ることができる。

エンフォースメントの強化とプライオリティ

  • 証券取引委員会のCain氏と司法省のFuhr氏は、米国政府が引き続き贈収賄をはじめとする腐敗行為の取り締まりを強化することを確認した。こうした腐敗行為の調査から立件までに要する期間は約3年かかるところ、2023年末から2024年初旬にかけて、さらに複数の審決が公表される予定であることを明らかにした。事実、2023年に公表された FCPA 審決の数は2022年の水準を大きく上回るものとなった。
  • 司法省や証券取引委員会 が特に注力する案件は、米国内を超えてグローバルに行われる腐敗行為、とりわけ各国政府高官と企業の経営陣間の腐敗行為や、複数の国にまたがって行われる不正行為にあり、こうした不正行為の撲滅に向けてエンフォースメントを強化する姿勢を今後も継続する、とした。
  • Fuhr氏は、企業だけでなく、実際に不正行為に携わった個人に対してもその責任を問う姿勢を明らかにした。こうした個人の責任を迅速かつ効率的に追及するためにも、不正行為をタイムリーに申告することが極めて重要となる。

和解成立後の義務:近時の和解の教訓

  • 刑事紛争解決や和解契約を締結すれば事件が終結し、安泰というわけではない。FuhrとLeonの両氏は、2023年3月のテレコム関連の有罪答弁を引き合いにして、検察は企業が刑事紛争解決の際に合意された条件に従うことを求めており、これに違反することのないよう警鐘をならした。この事件では、ある企業が司法省と2019年に交わした起訴延期合意 (Deferred Prosecution Agreement) の条項に違反したとして、結果的に訴追されるに至った。特にFuhr氏は、企業は誠実に行動し、和解契約の文言を遵守し、疑わしい場合は潜在的な違法行為を開示する側に回る必要があると強調した。

「合理的に速やか」な不正行為の自主的申告とは

  • 刑事部の改訂版企業エンフォースメント方針(「Corporate Enforcement Policy」)の下で司法省は、企業による違反行為の自主的な申告、捜査への協力の有無や程度、是正措置の内容を重要な考慮要素としてFCPA違反事件の処分内容を決定している。一方で、こうした方針の適用をめぐる不確実性や不透明性に対する懸念が提起されていることも事実である。例えば、2023年9月に司法省と不起訴合意(「Non-Prosecution Agreement」)を締結したAlbemarle事件では、Albemarle社が自主的に不正行為を申告したにもかかわらず、当該申告が「合理的に速やかに」に行われなかったとして、司法省は同社に不起訴処分(「Declination」)の恩恵を受ける資格がないと判断した。
  • この件に関し、Fuhr氏はAlbemarleが司法省に不正行為の申告をしたのが、不正行為の疑惑をかけられてから16ヶ月、そして当局が疑惑を裏付けてから9ヶ月経ってからであることを指摘した。これは、より最近の事例で、不正行為の可能性を認識してから3か月、なおかつその不正行為を確認してからわずか1日足らずでその事実を司法省に申告した結果、不起訴処分を受けたLifecore社の事案と比較しても遅すぎる対応である、とFuhr氏はコメントした。
  • これらの事例を踏まえ、Cain氏は会社のベストポリシーとして速やかに自主的に証券取引委員会に申告することを推奨し、またそれによって失うものもないと付言した。

適時かつ適切な是正措置を講じることの重要性

  • 司法省及び証券取引委員会の高官は、不正行為の自主申告や捜査への協力に加え、不正行為に対す適時かつ適切な是正策の導入の重要性を訴えた。すなわち、企業が適切な社内規定やポリシーを定めることは重要であるが、それにとどまらず、企業はポリシーを定期的にテストし、その内容が実際に機能していることを確認しなければならないと述べる。証券取引委員会のエンフォースメントの対象となった最近の事例にも、企業の内部監査部門が重要な内部統制の弱点を指摘したにもかかわらず、企業レベルでその欠陥に対処するための措置がとられなかったものがあった。是正措置は「企業がより良い企業になるため」に重要であり、実効的なものでなければならない、とされる。
  • Argentieri司法長官も是正措置の重要性を強調した。すなわち、社内ポリシーを継続的にテストないしモニタリングし、必要に応じてポリシーを改善し、そして不祥事の根本的の原因を理解しようとする努力は、企業が効果的な是正措置に取り組んでいるかどうかを判断する際の重要な要素である。特に、有事の際に緊急事態として速やかに行動を取ろうとする意思、そして実際の行動のスピードは責任感のある企業市民であることを示す重要な指標として、時には大幅な罰金減額のつながることがある、と述べる。
  • Leon氏は、Albermarle事件で同社が米国量刑ガイドラインの罰金額の下限から45パーセントの減額措置を受けた大きな要因は、大規模な是正措置を導入したことにあると指摘した。続けてLeon氏は、企業がタイムリーで適切な是正措置をとっていないと検察官が判断した場合には、司法省は企業に対してより低い減額(5%や10%等)にとどめることを躊躇しないと明言し、そのようなケースの例が間もなく公表されることを示唆した。

今日におけるモニターシップ(処分後監視制度)の意義

  • Fuhr氏もCainに同調し、次のように述べた。「モニターシップはこれまでも使われてきたし、現在も使われているし、今後も適切な状況下において使われる。」。すなわち、司法省がモニターシップを実施するのは、企業、特に重大な不祥事の経歴を持つ企業が、支援や監視なしには問題を是正できないと判断した場合であり、モニターシップは懲罰的な性格のものではなく、むしろ企業が和解後の義務に対処できるよう支援するためのものだという。

コンプライアンスに対するリスク・ベースのアプローチ

  • コンプライアンス・プログラムのベスト・プラクティスについてFuhr氏は、完璧なコンプライアンス・プログラムなど存在しないことを認めるなど、コンプライアンス・プログラムについて現実的な視点を持って取り組む企業を評価した。とりわけ、コンプライアンス担当者が、企業が直面している2~5個の主要なリスクを特定し、リスクの内容を明確に説明し、そのようなリスクを軽減するためにどのような措置を講じたかを説明できる場合に同氏は感銘を受けると述べる。検察官に好印象を与える要素として挙げられるのは、会社のコンプライアンス・プログラムの設計に反映されたリスクの分析内容と、それらのリスクの変化に応じて適時行われた修正の関連性をコンプライアンス担当者が明確に説明できることだという。

データ・分析の継続的利用

  • Argentieri司法長官は、司法省がFCPA案件の特定・処理にデータを積極的に活用しており、企業も同じようにデータを活用することを期待していると述べた。そして、検察は企業に対し、不正行為の発生時および審決時の両時点において、企業がデータを分析・追跡するためにどのような措置を取ってきたかを問うという。Albermarle社がコンプライアンス・プログラムの実効性を監視・測定するためにデータ分析を活用したことは、その顕著な例として挙げられている。
  • Leon氏もまた、司法省がデータ分析能力を高めるために多額の資本を投下しており、そうした高度なデータ分析がきっかけて近年、ある事件が検挙されたことを明かした。

個人用携帯やメッセージ・アプリのデータ保存

  • Cain氏とFuhr氏は、個人用携帯やメッセージ・アプリの使用が世界各地に広く浸透しており、避けられないものであることを認めつつも、企業はメッセージ・アプリ上のものも含めたビジネス上の記録保持に関するポリシーを策定し導入することが求められていると明らかにした。また、こうしたポリシーは、ビジネス記録の保持義務が遵守されなかった場合の帰結についても言及しなければならない。このようなポリシーを策定し、実施する企業は、司法省や証券取引委員会が絡む案件で、そうしたポリシーを導入していない企業と比較して「はるかに有利な立場」に立つことになる、と述べた。

役員・社員報酬のクローバック(回収)の重要性

  • クローバック(給与・賞与の回収・保留)の実施に関しては、法的および実務的な課題に直面する企業、とりわけ外国人従業員を多数抱える多国籍大企業からの懸念が寄せられている。こうした懸念を認識しつつも、Leon氏はAlbemarle事件を例に、同社が十数名の従業員から賞与の支払いを保留したことで多額の罰金減額(Credit)を受けたと指摘した。さらに同氏は、不正行為に関与した従業員に対して同様に賞与の支払いを差し控えた企業のFCPA解決事例が、少なくとももう1件控えていることを明らかにした。
  • Fuhr氏も同様に、クローバックやその他の報酬関連の是正措置を実施することの難しさに理解を示しつつも、そうした対応が「不可能ではない」述べた。

外国捜査当局との連携強化

  • Argentieri司法長官はスピーチの中で、複数の業界や世界各国にまたがる複雑なスキームに司法省が引き続き注力していること、そして外国の捜査当局と協力することの重要性を強調した。そして司法省が初めてコロンビア当局と協調解決を行った最適な例として、2023年8月のCorficolombiana DPAを強調した。
  • これを背景に、Argentieri司法長官は司法省の新たな取り組みである国際企業贈収賄防止イニシアチブ(「International Corporate Anti-Bribery Initiative 」又は「ICAB」)を発表した。このイニシアチブを通じて、司法省は国務省やその他の国内省庁だけでなく、海外の捜査当局との協力強化を図り、より多くの海外贈収賄犯罪の特定・起訴を目指す。その第一歩として、司法省は「最も影響が大きい」地域に焦点を当て、事件の特定と協調を支援する。
  • Leon氏は、ICABが外国当局との司法省の既存の関係を正式なものにし、より深めるものであり、国境を越えた協力ないし協調の改善に多くのリソースを割り当てるための内部プログラムを構築する、と付け加えた。少なくとも3人の経験豊富で、必要な語学スキルや地域の専門知識を持つ司法省のFCPAユニットのメンバーが中心となって、情報共有を促進し、司法省による捜査と並行し行われる外国当局による捜査の支援を指揮する予定である。

これらが多国籍企業にとって意味すること

2023年のエンフォースメントが縮小するとの憶測にもかかわらず、司法省と証券取引委員会はともに、今年はより多くの企業に対するFCPA審決が出される見込みであり、エンフォースメント活動の増加傾向は2024年も続くと強調した。司法省が近時改訂した企業エンフォースメント方針(「Corporate Enforcement Policy」)をどのように適用するかについての不確実性が多く残っていることを踏まえると、今後出される審決によって、不正行為を自主的に申告し、捜査へ協力し、是正措置を導入した企業に対して司法省がどのように恩典を付与するのか、そしてこうした措置を取らない企業に対してどのような罰則が待ち受けているのかについて明らかににされることが期待される。司法省の関係者は、このような指針が近々発表されることを示唆しており、今後の動向を注視する必要がある。

当局によるエンフォースメントが強化されることを見越して、日本の多国籍企業としては以下の点に留意すべきであろう。

  • コンプライアンスは依然として最優先課題である. 司法省と証券取引委員会は、企業がコンプライアンス専門家ととも実効性のあるリスク・ベースのコンプライアンス・プログラムを策定・実施し、これらのプログラムが実際に機能し、不祥事の根本原因の除去につながっていることを確認するために、定期的なモニタリングとテストを行うべきであることを繰り返し強調している。企業は、規制当局がコンプライアンスに重点を置いていることを踏まえて、どの程度コンプライアンス関連のリソースの確保のために投資するか判断すべきである。現在のコンプライアンス・プログラムがより高度なものになっているとの司法省や証券取引委員会のコメントからすると、当局が求める効果的なコンプライアンス・プログラムとして求める要求水準ないし期待値が高まっていることは明らかである。
  • 不正行為の自主的申告はFCPA和解のための鍵となる. 司法省と証券取引委員会は、企業審決において不正行為の自主申告の重要性を繰り返し述べ、可及的速やかに開示を行うことのメリットを強調している。しかしながら、今後公表される審決を通じて自主申告を行うことの実際のメリットを確認できるまでは、企業は自主的な申告を行うべきかどうかを引き続き慎重に検討すべきとも考えられる。
  • 外国捜査当局との連携はさらに強化なものとなる. 世界各国の規制当局との連携と協力が強化される中、企業が自主申告を行うかどうか、行うとして、どの機関に何を開示するかについての判断はますます複雑になっている。また、企業は、異なる機関や管轄からの相反する要請に対処することを含め、政府による多面的な調査において自らを守るための入念に準備する必要がある。こうした事態に備えて、企業は複数の国にまたがる不正調査の対応の経験が豊富な法律事務所と連携することが有益である。

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Contributors

Image: Kwame J. Manley
Kwame J. Manley

Partner, Litigation Department


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Nathaniel B. Edmonds

Partner, Litigation Department


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Leo Tsao

Partner, Litigation Department


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Nisa R. Gosselink-Ulep

Partner, Litigation Department


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Daye S. Cho

Associate, Litigation Department


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新井 敏之

弁護士・東京事務所代表


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Yuko Kamo

Associate, Corporate Department